あたるのですよ。だから好意的に言えば小説だって何だって皆結構なものだということになる」
と源氏は言って、小説が世の中に存在するのを許したわけである。
「それにしてもね、古いことの書いてある小説の中に私ほどまじめな愚直過ぎる男の書いてあるものがありますか。それからまた人間離れのしたような小説の姫君だってあなたのように恋する男へ冷淡で、知って知らぬ顔をするようなのはないでしょう。だからありふれた小説の型を破った小説にあなたと私のことをさせましょう」
近々と寄って来て源氏は玉鬘《たまかずら》にこうささやくのであった。玉鬘は襟《えり》の中へ顔を引き入れるようにして言う。
「小説におさせにならないでも、こんな奇怪なことは話になって世間へ広まります」
「珍しいことだというのですか。そうです。私の心は珍しいことにときめく」
ひたひたと寄り添ってこんな戯れを源氏は言うのである。
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「思ひ余り昔のあとを尋ぬれど親にそむける子ぞ類《たぐ》ひなき
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不孝は仏の道でも非常に悪いことにして説かれています」
と源氏が言っても、玉鬘は顔を上げようともしなか
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