》の上の山も訪《たづ》ねじ船の中に老いせぬ名をばここに残さん
春の日のうららにさして行く船は竿《さを》の雫《しづく》も花と散りける
[#ここで字下げ終わり]
こんな歌などを各自が詠《よ》んで、行く先をも帰る所をも忘れるほど若い人たちのおもしろがって遊ぶのに適した水の上であった。暮れかかるころに「皇※[#「鹿/章」、第3水準1−94−75]《こうじょう》」という楽の吹奏が波を渡ってきて、人々の船は歓楽陶酔の中に岸へ着き、設けられた釣殿《つりどの》の休息所へはいった。ここの室内の装飾は簡単なふうにしてあって、しかも艶《えん》なものであった。各夫人の若いきれいな女房たちが、競って華美な姿をして待ち受けていたのは、花の飾りにも劣らず美しかった。曲のありふれたものでない楽が幾つか奏されて、舞い手にも特に選抜された公達《きんだち》が出され、若い女に十分の満足を与えた。夜になってしまったことを源氏は残念に思って、前の庭に篝《かがり》をとぼさせ、階段の下の苔《こけ》の上へ音楽者を近く招いて、堂上の親王がた、高官たちと堂下の伶人《れいじん》とで大合奏が行なわれるのであった。専門家の中の優美な者だけが
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