も見ぬものを若草のことありがほに結ぼほるらん
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あなたは幼稚ですね。
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恋文であって、しかも親らしい言葉で書かれてある物であった。玉鬘は憎悪《ぞうお》も感じながら、返事をしないことも人に怪しませることであるからと思って、分の厚い檀紙《だんし》に、ただ短く、
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拝見いたしました。病気をしているものでございますから、失礼いたします。
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と書いた。源氏はそれを見て、さすがにはっきりとした女であると微笑されて、恨むのにも手ごたえのある気がした。
一度口へ出したあとは「おほたの松の」(恋ひわびぬおほたの松のおほかたは色に出《い》でてや逢はんと言はまし)というように、源氏が言いからんでくることが多くなって、玉鬘の加減の悪かった身体がなお悪くなっていくようであった。こうしたほんとうのことを知る人はなくて、家の中の者も、外の者も、親と娘としてばかり見ている二人の中にそうした問題の起こっていると、少しでも世間が知ったなら、どれほど人笑われな自分の名が立つことであろう、自分は飽くまでも薄倖《はっこう》な女で
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