言わないことにしてください」
と言って帰って行った。玉鬘は年齢からいえば何ももうわかっていてよいのであるが、まだ男女の秘密というものはどの程度のものを言うのかを知らない。今夜源氏の行為以上のものがあるとも思わなかったから、非常な不幸な身になったようにも歎《なげ》いているのである。気分も悪そうであった。女房たちは、「病気ででもおありになるようだ」と心配していた。
「殿様は御親切でございますね。ほんとうのお父様でも、こんなにまでよくあそばすものではないでしょう」
などと、兵部がそっと来て言うのを聞いても、玉鬘は源氏がさげすまれるばかりであった。それとともに自身の運命も歎かれた。
翌朝早く源氏から手紙を送って来た。身体《からだ》が苦しくて玉鬘は寝ていたのであるが、女房たちは硯《すずり》などを出して来て、返事を早くするようにと言う。玉鬘はしぶしぶ手に取って中を見た。白い紙で表面だけは美しい字でまじめな書き方にしてある手紙であった。
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例もないように冷淡なあなたの恨めしかったことも私は忘れられない。人はどんな想像をしたでしょう。
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うちとけてね
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