けで、おおようにしながら、

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袖の香をよそふるからに橘のみさへはかなくなりもこそすれ
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 と言ったが、不安な気がして下を向いている玉鬘の様子が美しかった。手がよく肥えて肌目《はだめ》の細かくて白いのをながめているうちに、見がたい物を見た満足よりも物思いが急にふえたような気が源氏にした。源氏はこの時になってはじめて恋をささやいた。女は悲しく思って、どうすればよいかと思うと、身体《からだ》に慄《ふる》えの出てくるのも源氏に感じられた。
「なぜそんなに私をお憎みになる。今まで私はこの感情を上手《じょうず》におさえていて、だれからも怪しまれていなかったのですよ。あなたも人に悟らせないようにつとめてください。もとから愛している上に、そうなればまた愛が加わるのだから、それほど愛される恋人というものはないだろうと思われる。あなたに恋をしている人たちより以下のものに私を見るわけはないでしょう。こんな私のような大きい愛であなたを包もうとしている者はこの世にないはずなのですから、私が他の求婚者たちの熱心の度にあきたらないもののあるのはもっともでしょう」
 
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