は悲しくなったまま言った。
「あなたにはじめて逢《あ》った時には、こんなにまでお母様に似ているとは見えなかったが、それからのちは時々あなたをお母様だと思うことがあるのですよ。その点ではずいぶん私を悲しがらせるあなただ。中将が少しも死んだ母に似た所がないものだから、親子というものはそれくらいのものかと思っていましたがね、あなたのような人もまたあるのですね」
 涙ぐんでいるのであった。そこに置かれてあった箱の蓋《ふた》に、菓子と橘《たちばな》の実を混ぜて盛ってあった中の、橘を源氏は手にもてあそびながら、

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「橘のかをりし袖《そで》によそふれば変はれる身とも思ほえぬかな
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 長い年月の間、どんな時にも恋しく思い出すばかりで、慰めは少しも得られなかった私が、故人にそのままなあなたを家の中で見ることは、夢でないかとうれしいにつけても、また昔が思われます。あなたも私を愛してください」
 と言って、玉鬘《たまかずら》の手を取った。女はこんなふうに扱われたことがなかったから、心持ちが急に暗く憂鬱《ゆううつ》になったが、ただ腑《ふ》に落ちぬふうを見せただ
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