なりますから、ある覚悟がいりますよ。右大将は若い時からいっしょにいた夫人が年上であることなどから、その人と別れるためにも、新たな結婚をしたがっているのですが、しかし、それも面倒《めんどう》の添った縁だと人の言うそれですからね、だから私も相手をだれとも仮定して考えて見ることができないのです。こんなことは親にもはっきりと意見の述べられない問題なのだが、あなたもひどくまだ若いというのではないから、自身の結婚する相手について判断のできない訳はないと思う。私をあなたのお母様だと思って、何でも相談してくだすったらいいと思う。あなたに不満足な思いをさせるような結婚はさせたくないと私は思っているのです」
 こう源氏はまじめに言っていたが、玉鬘《たまかずら》はどう返事をしてよいかわからないふうを続けているのもさげすまれることになるであろうと思って言った。
「まだ物心のつきませんころから、親というものを目に見ない世界にいたのでございますから、親がどんなものであるか、親に対する気持ちはどんなものであるか私にはわかってないのでございます」
 このおおような言葉がよくこの人を現わしていると源氏は思った。そう思うのがもっともであるとも思った。
「では、親のない子は育ての親を信頼すべきだという世間の言いならわしのように私の誠意をだんだんと認めていってくれますか」
 などと源氏は言っていた。恋しい心の芽ばえていることなどは気恥ずかしくて言い出せなかった。それとなくその気持ちを言う言葉は時々混ぜもするのであるが、気のつかぬふうであったから、歎息《たんそく》をしながら源氏は帰って行こうとした。縁に近くはえた呉竹《くれたけ》が若々しく伸びて、風に枝を動かす姿に心が惹《ひ》かれて、源氏はしばらく立ちどまって、

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「ませのうらに根深く植ゑし竹の子のおのがよよにや生《お》ひ別るべき
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 その時の気持ちが想像されますよ。寂しいでしょうからね」
 外から御簾《みす》を引き上げながらこう言った。玉鬘は膝行《いざ》って出て言った。

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「今さらにいかならんよか若竹の生ひ始めけん根をば尋ねん
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 かえって幻滅を味わうことになるでしょうから」
 源氏は哀れに聞いた。玉鬘の心の中ではそうも思っているのではなかった。どんな時に機
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