なものではないということを、あなたはそれからの経験でお知りになっただろうと思う」
 継息子《ままむすこ》のよこしまな恋に苦しめられたことを、源氏は聞いていたのであろうと女は恥ずかしく思った。
「こんなにみじめになりました晩年をお見せしておりますことでだれの過去の罪も清算されるはずでございます。これ以上の報いがどこにございましょう」
 と言って、空蝉《うつせみ》は泣いてしまった。昔よりも深味のできた品のよい所が見え、過去の恋人で現在の尼君として別世界のものに扱うだけでは満足のできかねる気も源氏はしたが、恋の戯れを言いかけうる相手ではなかった。いろいろな話をしながらも、せめてこれだけの頭のよさがあの人にあればよいのにと末摘花の住居《すまい》のほうがながめられた。こんなふうで源氏の保護を受けている女は多かった。だれの所も洩《も》らさず訪問して、
「長く来られない時もありますが、心のうちでは忘れているのではないのです。ただ生死の別れだけが私たちを引き離すものだと思いますが、その命というものを考えると、実に心細くなりますよ」
 などとなつかしい調子で恋人たちを慰めていた。皆ほどほどに源氏は愛して
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