恥ずかしいのであったが、
「足立たずで(かぞいろはいかに哀れと思ふらん三とせになりぬ足立たずして)遠い国へ流れ着きましたころから、私は生きておりましたことか、死んでおりましたことかわからないのでございます」
 とほのかに言うのが夕顔の声そのままの語音《ごいん》であった。源氏は微笑を見せながら、
「あなたに人生の苦しい道をばかり通らせて来た酬《むく》いは私がしないでだれにしてもらえますか」
 と言って、源氏は聡明《そうめい》らしい姫君の物の言いぶりに満足しながら、右近にいろいろな注意を与えて源氏は帰った。
 感じのよい女性であったことをうれしく思って、源氏は夫人にもそのことを言った。
「野蛮な地方に長くいたのだから、気の毒なものに仕上げられているだろうと私は軽蔑《けいべつ》していたが、こちらがかえって恥ずかしくなるほどでしたよ。娘にこうした麗人を持っているということを世間へ知らせるようにして、よくおいでになる兵部卿《ひょうぶきょう》の宮などに懊悩《おうのう》をおさせするのだね。恋愛至上主義者も私の家《うち》ではきまじめな方面しか見せないのも妙齢の娘などがないからなのだ。たいそうにかしずい
前へ 次へ
全56ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング