せるのであった。自分はもうすっかり田舎者なのだからと姫君は書くのを恥ずかしく思うふうであった。用箋《ようせん》は薫物《たきもの》の香を沁《し》ませた唐紙《とうし》である。
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数ならぬみくりや何のすぢなればうきにしもかく根をとどめけん
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とほのかに書いた。字ははかない、力のないようにも見えるものであったが、品がよくて感じの悪くないのを見て源氏は安心した。姫君を住ます所をどこにしようかと源氏は考えたが、南の一廓はあいた御殿もない。華奢《かしゃ》な生活のここが中心になっている所であるから、人出入りもあまりに多くて若い女性には気の毒である。中宮のお住居《すまい》になっている一廓の中には、そうした人にふさわしい静かな御殿もあいているが、中宮の女房になったように世間へ聞かれてもよろしくないと源氏は思って、少しじみな所ではあるが東北の花散里《はなちるさと》の住居の中の西の対は図書室になっているのを、書物をほかへ移してそこへ住ませようという考えになった。近くにいる人も気だての優しい、おとなしい人であるから、花散里と親しくして暮らすのもいいであろうと思
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