たが、九州の一行は姫君を介抱《かいほう》しながら坂を上るので、初夜の勤めの始まるころにようやく御堂へ着いた。御堂の中は非常に混雑していた。右近が取らせてあったお籠《こも》り部屋《べや》は右側の仏前に近い所であった。九州の人の頼んでおいた僧は無勢力なのか西のほうの間で、仏前に遠かった。
「やはりこちらへおいでなさいませ」
 と言って、右近が召使をよこしたので、男たちだけをそのほうに残して、おとど[#「おとど」に傍点]は右近との邂逅《かいこう》を簡単に豊後介へ語ってから、右近の部屋のほうへ姫君を移した。
「私などつまらない女ですが、ただ今の太政大臣様にお仕えしておりますのでね、こんな所に出かけていましても不都合はだれもしないであろうと安心していられるのですよ。地方の人らしく見ますと、生意気にお寺の人などは軽蔑《けいべつ》した扱いをしますから、姫君にもったいなくて」
 右近はくわしい話もしたいのであるが、仏前の経声の大きいのに妨げられて、やむをえず仏を拝んでだけいた。
 この方をお捜しくださいませ、お逢《あ》わせくださいませとお願いしておりましたことをおかなえくださいましたから、今度は源氏の
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