言った。あちらには何とも答える者がない。小侍徒は姫君の乳母《めのと》の娘である。独言《ひとりごと》を聞かれたのも恥ずかしくて、姫君は夜着を顔に被《かぶ》ってしまったのであったが、心では恋人を憐《あわれ》んでいた、大人のように。乳母などが近い所に寝ていてみじろぎも容易にできないのである。それきり二人とも黙っていた。
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さ夜中に友よびわたる雁がねにうたて吹きそふ荻《をぎ》のうは風
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身にしむものであると若君は思いながら宮のお居間のほうへ帰ったが、歎息《たんそく》してつく吐息《といき》を宮がお目ざめになってお聞きにならぬかと遠慮されて、みじろぎながら寝ていた。
若君はわけもなく恥ずかしくて、早く起きて自身の居間のほうへ行き、手紙を書いたが、二人の味方である小侍従にも逢うことができず、姫君の座敷のほうへ行くこともようせずに煩悶《はんもん》をしていた。女のほうも父親にしかられたり、皆から問題にされたりしたことだけが恥ずかしくて、自分がどうなるとも、あの人がどうなっていくとも深くは考えていない。美しく二人が寄り添って、愛の話をすることが悪いこと
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