ていた。源氏はこんなふうな態度を帝がおとりあそばすことになったことで苦しんでいた。故中宮のためにもおかわいそうなことで、また陛下には御|煩悶《はんもん》をおさせする結果になっている秘密奏上をだれがしたかと怪しく思った。命婦は御匣殿《みくしげどの》がほかへ移ったあとの御殿に部屋をいただいて住んでいたから、源氏はそのほうへ訪《たず》ねて行った。
「あのことをもし何かの機会に少しでも陛下のお耳へお入れになったのですか」
と源氏は言ったが、
「私がどういたしまして。宮様は陛下が秘密をお悟りになることを非常に恐れておいでになりましたが、また一面では陛下へ絶対にお知らせしないことで陛下が御仏の咎《とが》をお受けになりはせぬかと御煩悶をあそばしたようでございました」
命婦はこう答えていた。こんな話にも故宮の御感情のこまやかさが忍ばれて源氏は恋しく思った。
斎宮《さいぐう》の女御《にょご》は予想されたように源氏の後援があるために後宮《こうきゅう》のすばらしい地位を得ていた。すべての点に源氏の理想にする貴女《きじょ》らしさの備わった人であったから、源氏はたいせつにかしずいていた。この秋女御は御所か
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