多くて人心が恐怖状態になっておりますことは、必ずしも政治の正しいのと正しくないのとによることではございません。聖主の御代《みよ》にも天変と地上の乱のございますことは支那《しな》にもございました。ここにもあったのでございます。まして老人たちの天命が終わって亡《な》くなってまいりますことは大御心《おおみこころ》におかけあそばすことではございません」
などと源氏は言って、譲位のことを仰せられた帝をお諫《いさ》めしていた。問題が間題であるからむずかしい文字は省略する。
じみな黒い喪服姿の源氏の顔と竜顔《りゅうがん》とは常よりもなおいっそうよく似てほとんど同じもののように見えた。帝も以前から鏡にうつるお顔で源氏に似たことは知っておいでになるのであるが、僧都の話をお聞きになった今はしみじみとその顔に御目が注がれて熱い御愛情のお心にわくのをお覚えになる帝は、どうかして源氏にそのことを語りたいと思召すのであったが、さすがに御言葉にはあそばしにくいことであったから、お若い帝は羞恥《しゅうち》をお感じになってお言い出しにならなかった。そんな間帝はただの話も常よりはなつかしいふうにお語りになり、敬意をお
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