かに、御自身の御代《みよ》の宮廷にあったはなやかな儀式などをお描かせになった絵巻には、斎宮《さいぐう》発足の日の大極殿《だいごくでん》の別れの御櫛《みぐし》の式は、御心《みこころ》に沁《し》んで思召されたことなのであったから、特に構図なども公茂画伯《きんもちがはく》に詳しくお指図《さしず》をあそばして製作された非常にりっぱな絵もあった。沈《じん》の木の透かし彫りの箱に入れて、同じ木で作った上飾りを付けた新味のある御贈り物であった。御|挨拶《あいさつ》はただお言葉だけで院の御所への勤務もする左近の中将がお使いをしたのである。大極殿の御輿《みこし》の寄せてある神々しい所に御歌があった。
[#ここから2字下げ]
身こそかくしめの外《ほか》なれそのかみの心のうちを忘れしもせず
[#ここで字下げ終わり]
と言うのである。返事を差し上げないこともおそれおおいことであると思われて、斎宮の女御は苦しく思いながら、昔のその日の儀式に用いられた簪《かんざし》の端を少し折って、それに書いた。
[#ここから2字下げ]
しめのうちは昔にあらぬここちして神代のことも今ぞ恋しき
[#ここで字下げ終わり]
前へ
次へ
全24ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング