行き逢《あ》ふみちを頼みしもなほかひなしや塩ならぬ海

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あなたの関守《せきもり》がどんなにうらやましかったか。
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 という手紙である。
「あれから長い時間がたっていて、きまりの悪い気もするが、忘れない私の心ではいつも現在の恋人のつもりでいるよ。でもこんなことをしてはいっそう嫌《きら》われるのではないかね」
 こう言って源氏は渡した。佐はもったいない気がしながら受け取って姉の所へ持参した。
「ぜひお返事をしてください。以前どおりにはしてくださらないだろう、疎外されるだろうと私は覚悟していましたが、やはり同じように親切にしてくださるのですよ。この使いだけは困ると思いましたけれど、お断わりなどできるものじゃありません。女のあなたがあの御愛情にほだされるのは当然で、だれも罪とは考えませんよ」
 などと右衛門佐は姉に言うのであった。今はましてがらでない気がする空蝉《うつせみ》であったが、久しぶりで得た源氏の文字に思わずほんとうの心が引き出されたか返事を書いた。

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逢坂《あふさか》の関やいかなる関なれば繁《しげ》きなげきの中を
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