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確かに私は霊験を見た人だ」
と言う様子も美しい。こちらの派手《はで》な参詣ぶりに畏縮《いしゅく》して明石の船が浪速のほうへ行ってしまったことも惟光が告げた。その事実を少しも知らずにいたと源氏は心で憐《あわれ》んでいた。初めのことも今日のことも住吉の神が二人を愛しての導きに違いないと思われて、手紙を送って慰めてやりたい、近づいてかえって悲しませたことであろうと思った。住吉を立ってから源氏の一行は海岸の風光を愛しながら浪速に出た。そこでは祓いをすることになっていた。淀《よど》川の七瀬に祓いの幣が立てられてある堀江のほとりをながめて、「今はた同じ浪速なる」(身をつくしても逢はんとぞ思ふ)と我知らず口に出た。車の近くから惟光が口ずさみを聞いたのか、その用があろうと例のように懐中に用意していた柄の短い筆などを、源氏の車の留められた際に提供した。源氏は懐紙に書くのであった。
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みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひける縁《えに》は深しな
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惟光に渡すと、明石へついて行っていた男で、入道家の者と心安くなっていた者を
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