うちに帥《そつ》の宮がおいでになり、三位中将も来邸した。面会をするために源氏は着がえをするのであったが、
「私は無位の人間だから」
 と言って、無地の直衣《のうし》にした。それでかえって艶《えん》な姿になったようである。鬢《びん》を掻《か》くために鏡台に向かった源氏は、痩《や》せの見える顔が我ながらきれいに思われた。
「ずいぶん衰えたものだ。こんなに痩せているのが哀れですね」
 と源氏が言うと、女王は目に涙を浮かべて鏡のほうを見た。源氏の心は悲しみに暗くなるばかりである。

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身はかくてさすらへぬとも君があたり去らぬ鏡のかげははなれじ
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 と源氏が言うと、

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別れても影だにとまるものならば鏡を見てもなぐさめてまし
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 言うともなくこう言いながら、柱に隠されるようにして涙を紛らしている若紫の優雅な美は、なおだれよりもすぐれた恋人であると源氏にも認めさせた。親王と三位中将は身にしむ話をして夕方帰った。
 花散里《はなちるさと》が心細がって、今度のことが決まって以来始終手紙をよこすのも、源氏には
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