がいい。孫の内親王たちのために将来兄として力になってもらいたいと願っている大臣の家《うち》だから」
など仰せられた。ことに美しく装って、ずっと日が暮れてから待たれて源氏は行った。桜の色の支那錦《しなにしき》の直衣《のうし》、赤紫の下襲《したがさね》の裾《すそ》を長く引いて、ほかの人は皆正装の袍《ほう》を着て出ている席へ、艶《えん》な宮様姿をした源氏が、多数の人に敬意を表されながらはいって行った。桜の花の美がこの時にわかに減じてしまったように思われた。音楽の遊びも済んでから、夜が少しふけた時分である。源氏は酒の酔いに悩むふうをしながらそっと席を立った。中央の寝殿《しんでん》に女一《にょいち》の宮《みや》、女三の宮が住んでおいでになるのであるが、そこの東の妻戸の口へ源氏はよりかかっていた。藤《ふじ》はこの縁側と東の対の間の庭に咲いているので、格子は皆上げ渡されていた。御簾《みす》ぎわには女房が並んでいた。その人たちの外へ出している袖口《そでぐち》の重なりようの大ぎょうさは踏歌《とうか》の夜の見物席が思われた。今日などのことにつりあったことではないと見て、趣味の洗練された藤壺辺のことがなつ
前へ
次へ
全16ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング