恋人を求めようと働きかけることは世間体《せけんてい》のよろしくないことであろうとも躊躇《ちゅうちょ》されて、煩悶《はんもん》を重ねているばかりであった。
 三月の二十日過ぎに右大臣は自邸で弓の勝負の催しをして、親王方をはじめ高官を多く招待した。藤花《とうか》の宴も続いて同じ日に行なわれることになっているのである。もう桜の盛りは過ぎているのであるが、「ほかの散りなんあとに咲かまし」と教えられてあったか二本だけよく咲いたのがあった。新築して外孫の内親王方の裳着《もぎ》に用いて、美しく装飾された客殿があった。派手《はで》な邸《やしき》で何事も皆近代好みであった。右大臣は源氏の君にも宮中で逢った日に来会を申し入れたのであるが、その日に美貌の源氏が姿を見せないのを残念に思って、息子《むすこ》の四位少将を迎えに出した。

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わが宿の花しなべての色ならば何かはさらに君を待たまし
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 右大臣から源氏へ贈った歌である。源氏は御所にいた時で、帝《みかど》にこのことを申し上げた。
「得意なのだね」
 帝はお笑いになって、
「使いまでもよこしたのだから行ってやる
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