した」
 とだけ。
「もう一人のほうも悪くないようだった。曲の意味の表現とか、手づかいとかに貴公子の舞はよいところがある。専門家の名人は上手《じょうず》であっても、無邪気な艶《えん》な趣をよう見せないよ。こんなに試楽の日に皆見てしまっては朱雀院の紅葉《もみじ》の日の興味がよほど薄くなると思ったが、あなたに見せたかったからね」
 など仰せになった。
 翌朝源氏は藤壺の宮へ手紙を送った。
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どう御覧くださいましたか。苦しい思いに心を乱しながらでした。

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物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うち振りし心知りきや

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失礼をお許しください。
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 とあった。目にくらむほど美しかった昨日の舞を無視することがおできにならなかったのか、宮はお書きになった。

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から人の袖ふることは遠けれど起《た》ち居《ゐ》につけて哀れとは見き

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一観衆として。
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 たまさかに得た短い返事も、受けた源氏にとっては非常な幸福であった。支那《しな》における青海波の曲
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