た。乳母のような役をする老女たちは部屋へはいって宵惑《よいまど》いの目を閉じているころである。若い二、三人の女房は有名な源氏の君の来訪に心をときめかせていた。よい服に着かえさせられながら女王自身は何の心の動揺もなさそうであった。男はもとよりの美貌《びぼう》を目だたぬように化粧して、今夜はことさら艶《えん》に見えた。美の価値のわかる人などのいない所だのにと命婦は気の毒に思った。命婦には女王がただおおようにしているに相違ない点だけが安心だと思われた。会話に出過ぎた失策をしそうには見えないからである。自分の責めのがれにしたことで、気の毒な女王をいっそう不幸にしないだろうかという不安はもっていた。源氏は相手の身柄を尊敬している心から利巧《りこう》ぶりを見せる洒落気《しゃれぎ》の多い女よりも、気の抜けたほどおおようなこんな人のほうが感じがよいと思っていたが、襖子の向こうで、女房たちに勧められて少し座を進めた時に、かすかな衣被香《えびこう》のにおいがしたので、自分の想像はまちがっていなかったと思い、長い間思い続けた恋であったことなどを上手《じょうず》に話しても、手紙の返事をしない人からはまた口ずか
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