所の宿直所《とのいどころ》にまで出かけた。退出の時は左大臣が自身の車へ乗せて邸《やしき》へ伴った。病後の人の謹慎のしかたなども大臣がきびしく監督したのである。この世界でない所へ蘇生《そせい》した人間のように当分源氏は思った。
 九月の二十日ごろに源氏はまったく回復して、痩《や》せるには痩せたがかえって艶《えん》な趣の添った源氏は、今も思いをよくして、またよく泣いた。その様子に不審を抱く人もあって、物怪《もののけ》が憑《つ》いているのであろうとも言っていた。源氏は右近を呼び出して、ひまな静かな日の夕方に話をして、
「今でも私にはわからぬ。なぜだれの娘であるということをどこまでも私に隠したのだろう。たとえどんな身分でも、私があれほどの熱情で思っていたのだから、打ち明けてくれていいわけだと思って恨めしかった」
 とも言った。
「そんなにどこまでも隠そうなどとあそばすわけはございません。そうしたお話をなさいます機会がなかったのじゃございませんか。最初があんなふうでございましたから、現実の関係のように思われないとお言いになって、それでもまじめな方ならいつまでもこのふうで進んで行くものでもないから
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