がまだしらぬしののめの道
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 前にこんなことがありましたか」
 と聞かれて女は恥ずかしそうだった。

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「山の端《は》の心も知らず行く月は上《うは》の空にて影や消えなん
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 心細うございます、私は」
 凄《すご》さに女がおびえてもいるように見えるのを、源氏はあの小さい家におおぜい住んでいた人なのだから道理であると思っておかしかった。
 門内へ車を入れさせて、西の対《たい》に仕度《したく》をさせている間、高欄に車の柄を引っかけて源氏らは庭にいた。右近は艶《えん》な情趣を味わいながら女主人の過去の恋愛時代のある場面なども思い出されるのであった。預かり役がみずから出てする客人の扱いが丁寧きわまるものであることから、右近にはこの風流男の何者であるかがわかった。物の形がほのぼの見えるころに家へはいった。にわかな仕度ではあったが体裁よく座敷がこしらえてあった。
「だれというほどの人がお供しておらないなどとは、どうもいやはや」
 などといって預かり役は始終出入りする源氏の下家司《しもけいし》でもあったから、座敷の近くへ来て右近
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