省もしてみるのである。驚くほど柔らかでおおような性質で、深味のあるような人でもない。若々しい一方の女であるが、処女であったわけでもない。貴婦人ではないようである。どこがそんなに自分を惹きつけるのであろうと不思議でならなかった。わざわざ平生の源氏に用のない狩衣《かりぎぬ》などを着て変装した源氏は顔なども全然見せない。ずっと更《ふ》けてから、人の寝静まったあとで行ったり、夜のうちに帰ったりするのであるから、女のほうでは昔の三輪《みわ》の神の話のような気がして気味悪く思われないではなかった。しかしどんな人であるかは手の触覚からでもわかるものであるから、若い風流男以外な者に源氏を観察していない。やはり好色な隣の五位《ごい》が導いて来た人に違いないと惟光《これみつ》を疑っているが、その人はまったく気がつかぬふうで相変わらず女房の所へ手紙を送って来たり、訪《たず》ねて来たりするので、どうしたことかと女のほうでも普通の恋の物思いとは違った煩悶《はんもん》をしていた。源氏もこんなに真実を隠し続ければ、自分も女のだれであるかを知りようがない、今の家が仮の住居《すまい》であることは間違いのないことらしいか
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