しい人も時にはそちらへ行っていることがございます。その人は、よくは見ませんがずいぶん美人らしゅうございます。この間先払いの声を立てさせて通る車がございましたが、それをのぞいて女《め》の童《わらわ》が後ろの建物のほうへ来て、『右近《うこん》さん、早くのぞいてごらんなさい、中将さんが通りをいらっしゃいます』と言いますと相当な女房が出て来まして、『まあ静かになさいよ』と手でおさえるようにしながら、『まあどうしてそれがわかったの、私がのぞいて見ましょう』と言って前の家のほうへ行くのですね、細い渡り板が通路なんですから、急いで行く人は着物の裾《すそ》を引っかけて倒れたりして、橋から落ちそうになって、『まあいやだ』などと大騒ぎで、もうのぞきに出る気もなくなりそうなんですね。車の人は直衣《のうし》姿で、随身たちもおりました。だれだれも、だれだれもと数えている名は頭中将《とうのちゅうじょう》の随身や少年侍の名でございました」
 などと言った。
「確かにその車の主が知りたいものだ」
 もしかすればそれは頭中将が忘られないように話した常夏《とこなつ》の歌の女ではないかと思った源氏の、も少しよく探りたいらし
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