》ねて行くことも寒いことだろうと思われるものですから、どう思っているのだろうと様子も見がてらに雪の中を、少しきまりが悪いのですが、こんな晩に行ってやる志で女の恨みは消えてしまうわけだと思って、はいって行くと、暗い灯《ひ》を壁のほうに向けて据《す》え、暖かそうな柔らかい、綿のたくさんはいった着物を大きな炙《あぶ》り籠《かご》に掛けて、私が寝室へはいる時に上げる几帳《きちょう》のきれも上げて、こんな夜にはきっと来るだろうと待っていたふうが見えます。そう思っていたのだと私は得意になりましたが、妻自身はいません。何人かの女房だけが留守《るす》をしていまして、父親の家へちょうどこの晩移って行ったというのです。艶《えん》な歌も詠《よ》んで置かず、気のきいた言葉も残さずに、じみにすっと行ってしまったのですから、つまらない気がして、やかましく嫉妬をしたのも私にきらわせるためだったのかもしれないなどと、むしゃくしゃするものですからありうべくもないことまで忖度《そんたく》しましたものです。しかし考えてみると用意してあった着物なども平生以上によくできていますし、そういう点では実にありがたい親切が見えるのです
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