をも言葉をも触れさせないように力《つと》めた。互に相棄てたくない、執着《しゅうじゃく》の心が、世相の実在に反比例して強く働いたからである。
 日影の動かない日は有り得ない。其時は来て其影は流れた。力寿は樹の葉が揺れ止んで風の無くなったのが悟られるように、遂に安らかに死んで終《しま》った。定基は自分も共に死んだようになったが、それは一時《いっとき》のことで、死なないものは死ななかった。たしかに生残っていた。別れたのだ。二つが一つになっていた魂が、彼は我を捨て、我は彼に従うことが叶わないで、彼は去り、我は遺ったのであった。ただ茫然《ぼうぜん》漠然としていたのみであった。
 生は相憐れみ、死は相捐《あいす》つという諺《ことわざ》がある。其諺通りなら定基は早速に僧を請じ経を誦《じゅ》させ、野辺の送りを営むべきであった。しかし普通の慣例の如くに然様《そう》いう社会事相を進捗《しんちょく》させるには定基の愛着は余りにも深くて、力寿は死んで確かに我を捐てたけれども、我は力寿を捐つるには忍びなかった。簀《さく》を易《か》え机《き》を按《お》き、花を供《くう》し香を焼《た》くような事は僕婢《ぼくひ》の為
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