旅行の今昔
幸田露伴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)仰《おっし》あるのですか。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「※」は「うかんむり+眞」、第3水準1−47−57、390−8]《お》いたり、
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 旅行に就いて何か経験上の談話をしろと仰《おっし》ゃるのですか。
 どう致しまして。碌に旅行という程の旅行を仕た事も無いのですもの、御談し仕度くっても是といって御談し申上げるような事も有りません。いくら経験だと申して、何処其処の山で道に迷ったとか、或は又何処其処の海岸で寄宿《のじゅく》をしたとかいうような談は、文章にでも書いて其の文章に詩的の香があったらば少しは面白いか知れませぬが、ただ御話し仕たって一向おかしくもない事になりますから申し上げられません。
 経験談の代りに「空想談」は何様です?。
 旅行も日本内地は最早何等の思慮分別をも要せぬほどに開けてまいりました。で、鉄道や汽船の勢力が如何なる海陬山村にも文明の威光を伝える為に、旅客は何の苦なしに
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