》、薮椿《やぶつばき》の落ちはららいでいる、小禽《ことり》のちらつく、何ということも無い田舎路ではあるが、ある点を見出しては、いいネエ、と先輩がいう。なるほど指摘《してき》されて見ると、呉春《ごしゅん》の小品でも見る位には思えるちょっとした美がある。小さな稲荷《いなり》のよろけ鳥居が薮げやきのもじゃもじゃの傍《そば》に見えるのをほめる。ほめられて見ると、なるほどちょっとおもしろくその丹《に》ぬりの色の古ぼけ加減が思われる。土橋《どばし》から少し離《はな》れて馬頭観音《ばとうかんのん》が有り無しの陽炎《かげろう》の中に立っている、里の子のわざくれだろう、蓮華草《れんげそう》の小束《こたば》がそこに抛《ほう》り出されている。いいという。なるはど悪くはない。今はじまったことでは無いが、自分は先輩のいかにも先輩だけあるのに感服させられて、ハイなるほどそうですネ、ハイなるほどそうですネ、と云っていると、東坡巾の先生は※[#「單+展」、第4水準2−4−51]然《てんぜん》として笑出して、君そんなに感服ばかりしていると、今に馬糞《まぐそ》の道傍《みちばた》に盛上《もりあ》がっているのまで春の景色《け
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