》のパッチで尻端折《しりはしょり》、薄《うす》いノメリの駒下駄穿《こまげたば》きという姿《なり》も、妙な洒落《しゃれ》からであって、後輩の自分が枯草色《かれくさいろ》の半毛織の猟服《りょうふく》――その頃《ころ》銃猟《じゅうりょう》をしていたので――のポケットに肩《かた》から吊《つ》った二合瓶《にごうびん》を入れているのだけが、何だか野卑《やひ》のようで一群に掛離《かけはな》れ過ぎて見えた。
 庭口から直《ちょく》に縁側《えんがわ》の日当りに腰《こし》を卸《おろ》して五分ばかりの茶談の後、自分を促《うなが》して先輩等は立出でたのであった。自分の村人は自分に遇《あ》うと、興がる眼《め》をもって一行を見て笑いながら挨拶《あいさつ》した。自分は何となく少しテレた。けれども先輩達は長閑気《のんき》に元気に溌溂《はつらつ》と笑い興じて、田舎道《いなかみち》を市川の方へ行《ある》いた。
 菜《な》の花畠《はなばたけ》、麦《むぎ》の畠、そらまめの花、田境《たざかい》の榛《はん》の木を籠《こ》める遠霞《とおがすみ》、村の児《こ》の小鮒《こぶな》を逐廻《おいまわ》している溝川《みぞかわ》、竹籬《たけがき
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