夜の隅田川
幸田露伴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)漁猟《りょう》

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「舟+首」、第4水準2−85−77]
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 夜の隅田川の事を話せと云ったって、別に珍らしいことはない、唯闇黒というばかりだ。しかし千住から吾妻橋、厩橋、両国から大橋、永代と下って行くと仮定すると、随分夜中に川へ出て漁猟《りょう》をして居る人が沢山ある。尤も冬などは沢山は出て居ない、然し冬でも鮒、鯉などは捕《と》れる魚だから、働いて居るものもたまにはある。それは皆んな夜縄を置いて朝早く捕るのである。此の夜縄をやるのは矢張り東京のものもやるが、世帯船《しょたいぶね》というやつで、生活の道具を一切備えている、底の扁《ひら》たい、後先もない様な、見苦しい小船に乗って居る余所《よそ》の国のものがやるのが多い。川続きであるから多く利根の方から隅田川へ入り込んで来る、意外に遠い北や東の国のものである。春から秋へかけては総ての漁猟の季節であるから、猶更左
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