奈良朝から平安朝、平安朝と来ては実に外美内醜の世であったから、魔法くさいことの行われるには最も適した時代であった。源氏物語は如何にまじないが一般的であったかを語っており、法力《ほうりき》が尊いものであるかを語っている。この時代の人※[#二の字点、1−2−22]は大概現世祈祷を事とする堕落僧の言を無批判に頂戴し、将門《まさかど》が乱を起しても護摩《ごま》を焚《た》いて祈り伏せるつもりでいた位であるし、感情の絃《いと》は蜘蛛《くも》の糸ほどに細くなっていたので、あらゆる妄信にへばりついて、そして虚礼と文飾と淫乱とに辛《から》くも活きていたのである。生霊《いきりょう》、死霊《しりょう》、のろい、陰陽師《おんようし》の術、巫覡《ふげき》の言、方位、祈祷、物の怪《け》、転生、邪魅《じゃみ》、因果、怪異、動物の超常力、何でも彼《か》でも低頭《ていとう》してこれを信じ、これを畏れ、あるいはこれに頼り、あるいはこれを利用していたのである。源氏以外の文学及びまた更に下っての今昔《こんじゃく》、宇治《うじ》、著聞集《ちょもんじゅう》等の雑書に就いて窺《うかが》ったら、如何にこの時代が、魔法ではなくとも少
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