、遂に成就したと思ったのは、何処《どこ》に身を置いて寝ても、寝たところの屋《や》の上に夜半頃になればきっと鴟《ふくろう》が来て鳴いたし、また路を行けば行く前には必ず旋風《つじかぜ》が起った。とこういうことを語ったという。鴟は天狗の化するものであるとされていたのである。前に挙げた僧正遍照も天狗の化した鴟を鉄網に籠めて焼いたのである。屋の上で鴟の鳴くのは飯綱の法成就の人に天狗が随身|伺候《しこう》するのである意味だ。旋風の起るのも、目に見えぬ眷属《けんぞく》が擁護して前駆《ぜんく》するからの意味である。飯綱の神は飛狐《ひこ》に騎《の》っている天狗である。
 こういう恐ろしい飯綱成就の人であった植通は、実際の世界においてもそれだけの事はあった人である。
 織田信長が今川を亡ぼし、佐※[#二の字点、1−2−22]木、浅井、朝倉をやりつけて、三好、松永の輩《はい》を料理し、上洛して、将軍を扶《たす》け、禁闕《きんけつ》に参った際は、天下皆鬼神の如くにこれを畏敬した。特《こと》に癇癖《かんぺき》荒気《あらき》の大将というので、月卿雲客も怖れかつ諂諛《てんゆ》して、あたかも古《いにしえ》の木曾|義仲
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