う。
「赤い衣服《きもの》を着る結局《おち》が汝《おまえ》のトドの望なのかエ、お茶人過ぎるじゃあ無いか。
「赤い衣服《きもの》ア善人《ぜんにん》だから被《き》せられるんだ。そんなケチなのとアちと違うんだが、おれが強盗になりゃ汝《てめえ》はどうする。
「厭だよ、そんな下らないことを云っては、お隣家《となり》だって聞いてるヨ。
「隣家で聞いたって巡査《じゅんさ》が聞いたって、談話《はなし》だイ、構うもんか、オイどうする。
「おふざけで無いよ馬鹿馬鹿しい。
と今は一切受付けぬ語気。男はこの様子を見て四方《あたり》をきっと見廻《みま》わしながら、火鉢越に女の顔近く我顔を出して、極めて低き声ひそひそと、
「そんなら汝《てめえ》、おれが一昨日《おととい》盗賊《ぬすみ》をして来たんならどうするつもりだ。
と四隣《あたり》へ気を兼ねながら耳語《ささや》き告ぐ。さすがの女ギョッとして身を退《ひ》きしが、四隣を見まわしてさて男の面をジッと見、その様子をつくづく見る眼に涙《なみだ》をにじませて、恐る恐る顔を男の顔へ近々と付けて、いよいよ小声に、
「金《きん》さん汝《おまい》情無い、わたしにそんなことを聞かな
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