持っては毀《こわ》し持っては毀し、女房《かかあ》も七度《ななたび》持って七度出したが、こんな酒はまだ呑まなかった。
「何だネエ汝《おまえ》は、朝ッぱらから老実《じみ》ッくさいことをお言いだネ。
「ハハハ、そうよ、異《おつ》に後生気《ごしょうぎ》になったもんだ。寿命《じゅみょう》が尽《つ》きる前にゃあ気が弱くなるというが、我《おら》アひょっとすると死際《しにぎわ》が近くなったかしらん。これで死んだ日にゃあいい意気地無《いくじな》しだ。
「縁起《えんぎ》の悪いことお云いでないよ、面白くもない。そんなことを云っているより勢いよくサッと飲んで、そしていい考案《かんがえ》でも出してくれなくちゃあ困るよ。
「いいサ、飲むことはこの通りお達者だ、案じなさんな。児を棄《す》てる日になりゃア金の茶釜《ちゃがま》も出て来るてえのが天運だ、大丈夫《だいじょうぶ》、銭が無くって滅入《めい》ってしまうような伯父《おじ》さんじゃあねえわ。
「じゃあ何《なん》かいい見込《みこみ》でも立ってるのかエ。
「ナアニ、ちっとも立ってねえのヨ。
「どうしたらそういい気になっていられるだろうネ。仕様が無いネエ、どうかしておくれ
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