かい》たる鰹節を鍋の中《うち》に摘《つま》み込《こ》んで猪口《ちょく》を手にす。注《つ》ぐ、呑《の》む。
「いいかエ。
「素敵だッ、やんねえ。
 女も手酌《てじゃく》で、きゅうと遣《や》って、その後徳利を膳に置く。男は愉快気《ゆかいげ》に重ねて、
「ああ、いい酒だ、サルチルサンで甘《あめ》え瓶《びん》づめとは訳が違う。
「ほめてでももらわなくちゃあ埋《うま》らないヨ、五十五銭というんだもの。
「何でも高くなりやあがる、ありがてえ世界《せけえ》だ、月に百両じゃあ食えねえようになるんでなくッちゃあ面白くねえ。
「そりゃあどういう理屈《りくつ》だネ。
「一揆《いっき》がはじまりゃあ占《し》めたもんだ。
「下らないことをお言いで無い、そうすりゃあ汝《おまえ》はどうするというんだエ。
「構うことあ無えやナ、岩崎《いわさき》でも三井《みつい》でも敲《たた》き毀《こわ》して酒の下物《さかな》にしてくれらあ。
「酔《よ》いもしない中からひどい管《くだ》だねエ、バアジンへ押込んで煙草三本拾う方じゃあ無いかエ、ホホホホ。
「馬鹿あ吐《ぬ》かせ、三銭の恨《うらみ》で執念《しゅうねん》をひく亡者《もうじゃ》の
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