いふのが奇異だ。行方河内両郡の食糧を奪つたものを執《とら》へんとするものを、寃枉《ゑんわう》を好むとは云ひ難い。為憲貞盛合体して兵を動かしたといふのは、蓋《けだ》し事実であらうが、要するに維幾と対談に出かけたところからは、将門のむしやくしや腹の決裂である。此書の末の方には憤怨|恨※[#「りっしんべん+(緋−糸)」、第4水準2−12−50]《こんひ》と自暴の気味とがあるが、然し天位を何様《どう》しようの何のといふそんな気味は少しも無い。むしろ、乱暴はしましたが同情なすつても宜《よ》いではありませんか、あなたには御気の毒だが、男児として仕方が無いぢやありませんか、といふ調子で、将門が我武者一方で無いことを現はしてゐて愛す可《べ》きである。
将門は厭《いや》な浮世絵に描かれた如き我武者一方の男では無い。将門の弟の将平は将門よりも又やさしい。将門が新皇と立てられるのを諫《いさ》めて、帝王の業は智慧《ちゑ》力量の致すべきでは無い、蒼天《さうてん》もし与《く》みせずんば智力また何をか為《な》さん、と云つたとある。至言である。好人である。斯様《かう》いふ弟が有つては、日本ではだめだが国柄によつては
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