2]な事になつたが、いやに賢く狡滑《かうくわつ》なものは、自分の生命を抛出《なげだ》して闘ふといふことをせずに、いつも他の勢力や威力や道理らしいことやを味方にして敵を窘《くるし》めることに長《た》けたものだ。何様《どう》いふ告訴状を上《たてまつ》つたか知らぬが、多分自分が前の常陸大掾であつたことと、現常陸大掾であつた国香の死したことを利用して、将門が暴威に募り乱逆を敢《あへ》てしたことを申立てたに相違無く、そしてそれから後世の史をして将門常陸大掾国香を殺すと書かしめるに至らせたのであらう。去年十二月二十九日の符が、今年九月になつて、左近衛番長の正六位上|英保純行《あぼのすみゆき》、英保氏立、宇自加|支興《もちおき》等によつて齎《もた》らされ、下毛下総常陸等の諸国に朝命が示され、原告源護、被告将門、および国香の麾下《きか》の佗田真樹を召寄せらるゝ事になつた、そこで将門は其年十月十七日、急に上京して公庭に立つた。一部始終を申立てた。阪東訛《ばんどうなま》りの雑つた蛮音《ばんおん》で、三戦連勝の勢に乗じ、がん/\と遣付《やりつけ》たことであらう。もとより事実を陰蔽して白粉を傅《つ》けた談をす
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