夥《おびただ》しい田産を押収せんとしたのである。と云つて居る。成程源家の子のために大勢が骨折つて貰ひ得て呉れようとした美人を貰ひ得損じて、面目を失はせられ、しかも日比《ひごろ》から彼が居らなくばと願つて居た将門に其の婦人を得られたとしては、要撃して恨《うらみ》を散じ利を得んとするといふことも出て来さうなことである。然しこれも確拠があつてでは無い想像らしい。たゞ其中の将門を滅せば田産押収の利のあるといふことは、拠《よ》るところの無い想像では無い。
要するに委曲《ゐきよく》の事は徴知することが出来ない。耳目の及ぶところ之を知るに足らないから、安倍晴明なら識神を使つて委細を悟るのであるが、今何とも明解することは我等には不能だ。天慶年間、即ち将門死してから何程の間も無い頃に出来たといふ将門記の完本が有つたら訳も分かるのであらうが、今存するものは残闕《ざんけつ》であつて、生憎発端のところが無いのだから如何《いかん》とも致方は無い。然し試みに考へて見ると、将門が源家の女《むすめ》を得んとしたことから事が起つたのでは無いらしい、即ち将門始末の説は受取り兼ねるのであつて、むしろ将門の得た妻の事から私
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