て、艶《つや》やかなる前髪|惜気《おしげ》もなく我膝《わがひざ》に押付《おしつけ》、動気《どうき》可愛《かわゆ》らしく泣き俯《ふ》しながら、拙《つたな》き妾《わたくし》めを思い込まれて其程《それほど》までになさけ厚き仰せ、冥加《みょうが》にあまりてありがたしとも嬉しとも此《この》喜び申すべき詞《ことば》知らぬ愚《おろか》の口惜し、忘れもせざる何日《いつ》ぞやの朝、見所もなき櫛《くし》に数々の花|彫付《ほりつけ》て賜《たま》わりし折より、柔《やさ》しき御心ゆかしく思い初《そめ》、御小刀《おこがたな》の跡|匂《にお》う梅桜、花弁《はなびら》一片《ひとひら》も欠《かか》せじと大事にして、昼は御恩賜《おんめぐみ》頭《かしら》に挿《さ》しかざせば我為《わがため》の玉の冠、かりそめの立居《たちい》にも意《き》を注《つけ》て落《おち》るを厭《いと》い、夜は針箱の底深く蔵《おさ》めて枕《まくら》近く置《おき》ながら幾度《いくたび》か又|開《あけ》て見て漸《ようや》く睡《ねむ》る事、何の為とは妾《わたくし》も知らず、殊更其日|叔父《おじ》の非道《ひどう》、勿体《もったい》なき悪口|計《ばか》り、是も妾《
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