か》べるお辰《たつ》の像、元より誰《たれ》に頼まれしにもあらねば細工料取らんとにもあらず、唯《ただ》恋しさに余りての業、一刀《いっとう》削《けずり》ては暫《しばら》く茫然《ぼうぜん》と眼《め》を瞑《ふさ》げば花漬《はなづけ》めせと矯音《きょうおん》を洩《もら》す口元の愛らしき工合《ぐあい》、オヽそれ/\と影を促《とら》えて再《また》一《ひ》ト刀《かたな》、一ト鑿《のみ》突いては跡ずさりして眺《なが》めながら、幾日の恩愛|扶《たす》けられたり扶けたり、熱に汗蒸れ垢《あか》臭き身体《からだ》を嫌《いや》な様子なく柔《やさ》しき手して介抱し呉《くれ》たる嬉しさ今は風前の雲と消えて、思《おもい》は徒《いたずら》に都の空に馳《は》する事悲しく、なまじ最初お辰の難を助けて此家《このいえ》を出し其折《そのおり》、留《とど》められたる袖《そで》思い切《きっ》て振払いしならばかくまでの切なる苦《くるしみ》とはなるまじき者をと、恋しを恨む恋の愚痴、吾《われ》から吾を弁《わきま》え難く、恍惚《うっとり》とする所へ著《あらわ》るゝお辰の姿、眉付《まゆつき》媚《なまめ》かしく生々《いきいき》として睛《ひとみ》、
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