《たはらえいさく》とありて末書に珠運様とやらにも此旨《このむね》御|鶴声《かくせい》相伝《あいつたえ》られたく候と筆を止《とど》めたるに加えて二百円何だ紙なり。
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    第七 如是報《にょぜほう》

      我は飛《とび》来《き》ぬ他化自在天宮《たけじざいてんぐう》に

 オヽお辰《たつ》かと抱き付かれたる御方《おかた》、見れば髯《ひげ》うるわしく面《おもて》清く衣裳《いしょう》立派なる人。ハテ何処《どこ》にてか会いたる様《よう》なと思いながら身を縮まして恐々《おそるおそる》振り仰ぐ顔に落来《おちく》る其《その》人の涙の熱さ、骨に徹して、アヽ五日前一生の晴の化粧と鏡に向うた折会うたる我に少しも違わず扨《さて》は父様《ととさま》かと早く悟りてすがる少女《おとめ》の利発さ、是《これ》にも室香《むろか》が名残の風情《ふぜい》忍ばれて心強き子爵も、二十年のむかし、御機嫌《ごきげん》よろしゅうと言葉|後《じり》力なく送られし時、跡ふりむきて今|一言《ひとこと》交《かわ》したかりしを邪見に唇|囓切《かみしめ》て女々《めめ》しからぬ風《ふり》誰《たが》為《ため》にか粧《よそお》
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