》支度《したく》大方は出来たり、善は急いで今宵《こよい》にすべし、不思議の因縁でおれの養女分にして嫁|入《いら》すればおれも一トつの善《よ》い功徳をする事ぞとホク/\喜び、忽《たちま》ち下女下男に、ソレ膳《ぜん》を出せ椀《わん》を出せ、アノ銚子《ちょうし》を出せ、なんだ貴様は蝶《ちょう》の折り様《よう》を知らぬかと甥子《おいご》まで叱《しか》り飛《とば》して騒ぐは田舎|気質《かたぎ》の義に進む所なり、かゝる中へ一人の男|来《きた》りてお辰様にと手紙を渡すを見ると斉《ひとし》くお辰あわただしく其男に連立《つれだち》て一寸《ちょっと》と出《いで》しが其まゝもどらず、晩方になりて時刻も来《きた》るに吉兵衛|焦躁《いらっ》て八方を駈廻《かけめぐ》り探索すれば同業の方《かた》に止《とま》り居し若き男と共に立去りしよし。牛の鞦《しりがい》爰《ここ》に外れてモウともギュウとも云うべき言葉なく、何と珠運に云い訳せん、さりとて猥褻《みだら》なる行《おこない》はお辰に限りて無《なか》りし者をと蜘手《くもで》に思い屈する時、先程の男|来《きた》りて再《また》渡す包物《つつみもの》、開《ひらき》て見れば、一筆
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