ごろ》になっても白粉《おしろい》一《ひ》トつ付《つけ》ず、盆正月にもあらゝ木の下駄《げた》一足新規に買おうでもないあのお辰、叔父なればとて常不断|能《よく》も貴様の無理を忍んで居る事ぞと見る人は皆、歯切《はぎしり》を貴様に噛《か》んで涙をお辰に飜《こぼ》すは、姑《しゅうと》に凍飯《こおりめし》[#「飯」は底本では「飲」]食わするような冷い心の嫁も、お辰の話|聞《きい》ては急に角《つの》を折ってやさしく夜長の御慰みに玉子湯でもして上《あげ》ましょうかと老人《としより》の機嫌《きげん》を取る気になるぞ、それを先度《せんど》も上田の女衒《ぜげん》に渡そうとした人非人《にんぴにん》め、百両の金が何で要《い》るか知らぬがあれ程の悌順《やさしい》女を金に易《かえ》らるゝ者と思うて居る貴様の心がさもしい、珠運という御客様の仁情《なさけ》が半分汲《く》めたならそんな事|云《い》わずに有難涙《ありがたなみだ》に咽《むせ》びそうな者。オイ、亀屋《かめや》の旦那《だんな》、おれとお吉《きち》と婚礼の媒妁役《なこうどやく》して呉れたを恩に着せるか知らぬが貴様々々は廃《よし》て下され、七七四十九が六十になっても
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