\と浮ぶお辰《たつ》の姿、首さし出《いだ》して眼《め》をひらけば花漬、閉《とず》ればおもかげ、是《これ》はどうじゃと呆《あき》れてまた候《ぞろ》眼をあけば花漬、アヽ是を見ればこそ浮世話も思いの種となって寝られざれ、明日は馬籠峠《まごめとうげ》越えて中津川《なかつがわ》迄《まで》行かんとするに、能《よ》く休までは叶《かな》わじと行燈《あんどん》吹き消し意《い》を静むるに、又しても其《その》美形、エヽ馬鹿《ばか》なと活《かっ》と見ひらき天井を睨《にら》む眼に、此《この》度《たび》は花漬なけれど、闇《やみ》はあやなしあやにくに梅の花の香《かおり》は箱を洩《も》れてする/\と枕《まくら》に通えば、何となくときめく心を種として咲《さき》も咲《さき》たり、桃の媚《こび》桜の色、さては薄荷《はっか》菊の花まで今|真盛《まっさか》りなるに、蜜《みつ》を吸わんと飛び来《きた》る蜂《はち》の羽音どこやらに聞ゆる如《ごと》く、耳さえいらぬ事に迷っては愚《おろか》なりと瞼《まぶた》堅《かた》く閉《と》じ、掻巻《かいまき》頭《こうべ》を蔽《おお》うに、さりとては怪《け》しからず麗《うるわ》しき幻《まぼろし》の花
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