《ひだ》の工匠《たくみ》なしと云《い》わせん事残念なり、珠運《しゅうん》命の有らん限りは及ばぬ力の及ぶ丈《た》ケを尽してせめては我が好《すき》の心に満足さすべく、且《かつ》は石膏《せっこう》細工の鼻高き唐人《とうじん》めに下目《しため》で見られし鬱憤《うっぷん》の幾分を晴《は》らすべしと、可愛《かわい》や一向専念の誓を嵯峨《さが》の釈迦《しゃか》に立《たて》し男、齢《とし》は何歳《いくつ》ぞ二十一の春|是《これ》より風は嵐山《らんざん》の霞《かすみ》をなぐって腸《はらわた》断つ俳諧師《はいかいし》が、蝶《ちょう》になれ/\と祈る落花のおもしろきをも眺《なが》むる事なくて、見ぬ天竺《てんじく》の何の花、彫りかけて永き日の入相《いりあい》の鐘にかなしむ程|凝《こ》り固《かたま》っては、白雨《ゆうだち》三条四条の塵埃《ほこり》を洗って小石の面《おもて》はまだ乾かぬに、空さりげなく澄める月の影宿す清水《しみず》に、瓜《うり》浸して食いつゝ歯牙香《しがこう》と詩人の洒落《しゃれ》る川原の夕涼み快きをも余所《よそ》になし、徒《いたず》らに垣《かき》をからみし夕顔の暮れ残るを見ながら白檀《びゃくだん
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