めに眼も遣らず人の辛きに耳も仮さず、世を捨てたればと一[#(ト)]口に、此世の人のさま/″\を、何ともならばなれがしに斥け捨つるは卑しきやうなり、何とて尼にはなりたりけん、如何にもして女と共に経るべかりしに、鈍《おぞ》くも自ら過ちけるよ、今は後世《ごせ》安楽も左のみ望まじ、火※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]《くわかう》に墜つるも何かあらん、俗に還りて女を叔母より取り返さんと、思ひしことも一度二度ならずありたりき、然れども流石|年来《としごろ》頼める御仏に離れまゐらせんことも影護《うしろめた》くて、心と心との争ひに何となすべき道も知らず、幼きより頼みまゐらせたる此地《こゝ》の御仏に七夜参の祈願を籠めしも、女の上の安かれとおもふ為ばかり、恰も今宵満願の折から図らず御眼にかゝりて、胸には此事あり此|念《おもひ》あるに、情無かりし君が徃時《むかし》の家を出でたまひし時の御光景《おんありさま》まで一[#(ト)]時に眼に浮み来りしかば、思へば女が四歳《よつ》の年、振分髪の童姿、罪も報も無き顔に愛度《あど》なき笑みの色を浮めて、父上※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22
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