《ぢんく》を濯《そゝ》ぎ、住吉の松が根洗ふ浪の音、難波江の蘆の枯葉をわたる風をも皆|御法《みのり》説く声ぞと聞き、浮世をよそに振りすてゝ越えし鈴鹿や神路山、かたじけなさに涙こぼれつ、行へも知れず消え失する富士の煙《けぶ》りに思ひを擬《よそ》へ、鴫立沢《しぎたつさは》の夕暮に※[#「筑」の「凡」に代えて「卩」、第3水準1−89−60]《つゑ》を停《とゞ》めて一人歎き、一人さまよふ武蔵野に千草の露を踏みしだき、果白河の関越えて幾干《いくそ》の山河隔たりし都の方をしのぶの里、おもはくの橋わたり過ぎ、嵐烈しく雪散る日辿り着きたる平泉、汀《みぎは》凍《こほ》れる衣川を衣手寒く眺めやり、出羽にいでゝ多喜の山に薄紅《うすくれなゐ》の花を愛《め》で、象潟《きさかた》の雨に打たれ木曾の空翠《くうすゐ》に咽んで、漸く花洛《みやこ》に帰り来たれば、是や見し往時《むかし》住みにし跡ならむ蓬が露に月の隠るゝ有為転変の有様は、色即空《しきそくくう》の道理《ことわり》を示し、亡きあとにおもかげをのみ遺し置きて我が朋友《ともどち》はいづち行きけむ無常迅速の為体《ていたらく》は、水漂草の譬喩《たとへ》に異ならず、いよ/
前へ 次へ
全52ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング