かりは耳に残りて、放たせ玉ふ赤光の谷※[#二の字点、1−2−22]山※[#二の字点、1−2−22]に映りあひ、天地忽ち紅色《くれなゐ》になるかと見る間に失せ玉ひぬ。
西行はつと我に復りて、思へば夢か、夢にはあらず。おのれは猶かつ提婆品《だいばぼん》を繰りかへし/\読み居たるか、其読続き我が口頭に今も途絶えず上り来れり。[#地から2字上げ](明治二十五年五月「国会」)
彼一日
其一
頼み難きは我が心なり、事あれば忽に移り、事無きもまた動かんとす。生じ易きは魔の縁なり、念《おもひ》を放《ほしいまゝ》にすれば直に発《おこ》り、念を正しうするも猶起らんとす。此故に心は大海の浪と揺《ゆら》ぎて定まる時無く、縁は荒野の草と萠えて尽くる期《ご》あらねば、たま/\大勇猛の意気を鼓して不退転の果報を得んとするものも、今日の縁にひかれて旧年の心を失ふ輩は、可惜《あたら》舟を出して彼岸に到り得ず、憂くも道に迷ひて穢土《ゑど》に復還るに至る。されば心を収むるは霊地に身を※[#「宀/眞」、第3水準1−47−57]《お》くより好きは無く、縁を遮るは浄業《じやうごふ》に思を傾くるを
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